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生命への回帰
錬金術と煉丹術とシンナバー
(辰砂)




ありがたきお題

ブログの方で「ネタ〜、なんかネタ〜」とネタ不足に頭を絞っておりましたらば、ありがたくも
「シンナバー」というお題をいただき、調べてみました。
ブログで書いた時点では、シンナバーを持っていなかったのですが、調べていくうちにすっかりハマり、ちいさいものを買っちゃいました。

さて、話はちょっと離れたところから進めていきます。
「電子辞書」……ご存じですよね。私は、この文を書くにも、調べるにもパソコンとネットを使ってます。
会社で文を書いていたときもそうでした。
なんてったって便利で早い。(打ち間違い&変換ミスで誤字は量産しますが)
……でも、言葉を調べるのは昔ながらの辞書でした。

使っていなかったので、言い切ることはできませんが、電子辞書は、「調べたことしかでてこない」のが不満だったのです。
ネットでの検索も辞書も、ある言葉を調べるとその他の情報も一緒に入ってきます。
その情報は、調べていることに対して関係あるものもないものもごちゃ混ぜのまさに玉石混淆。
急いでいるときは「余計なモンは出てこなくていい!」と思いますが、たいていはその「余計なもの」がおもしろく、情報の幅を広げてくれるのです。
ある言葉を調べ、その片隅に出てきた別の単語を調べ、またそこから違う分野へ……。

キャンドル水晶とエレスチャルについて調べたときもそうでした。
エレスチャルから骸晶へ、結晶のパターンへ……と、芋蔓式にたぐっていって、まさか、タンパク質の結晶の話が水晶につながってこようとは。今回のシンナバーもそんな感じで深みにはまりました。


シンナバーってどんな石?

シンナバーについては、最初、
●水銀を含む鉱物である
●赤い色をしているらしい

ということしか知りませんでした。で、それに付随する情報として、
●水銀の赤である丹は、古墳の装飾などに使われた
●中国で不老不死の薬の材料のひとつにされていた
●金メッキに使われる
●丹生大師などの水銀に関する神社仏閣がある

というのが頭にありました。

さてはて、それが何につながっていったのか……文字ばっかりでなんですが、お楽しみ下さい♪

まず、
「シンナバー」ということで調べてみれば、おそらくこういう情報が出てくるでしょう。

シンナバー /cinnabar
(辰砂(しんしゃ)

水銀の原料や赤い原料として用いられていた硫化鉱物。
六方晶系の鉱物で、六角の板状や柱状の結晶体、
または皮殻状、土状、塊状などで産出。
色は、朱赤色や帯褐赤色、褐色、黒色、灰色など。
石英や花崗岩の中に含まれる不透明なものがほとんどだが、
まれに透明結晶もある。

硬度は2〜2.5。

中国では古代から、神聖な石とされ宗教儀式などに使われたり、
粉砕して不老長寿の霊薬として飲まれていたこともある。
最近では、金運や成功の石として人気。


スピリチュアルな意味合いは諸説ありますが、「シンナバー」で調べるとこんな感じです。

水銀、ときくと物騒なイメージがあります。
実際、水銀は毒性があるのですが、シンナバー自体は熱しない限り危険性はないそうです。
ちなみに熱するとシンナバーは水銀と硫化水素になります。


「辰砂」で調べてみると

……で、シンナバーの代わりに「辰砂」で検索するとかなり出てくる情報が変わります。
中国では朱砂。古くから顔料や素銀の原料として使われていたようですが、その起源はすでに定かではないほど古いのだとか。

水銀と人との関わりの古さは、ヨーロッパでも同じであったらしく、英語の鉱山(Mine)や鉱物(Mineral)は、水銀鉱山を意味するラテン語、“Miniaria”から派生した言葉なんだそうです。
(シンナバーの語源は英名はギリシャ語の「kinnabaris=赤い絵の具」、「辰砂」は、中国の辰州で採れたことに由来します。
また、後に辰砂は「赤」を意味する言葉にもなり、陶芸で銅を使って赤く発色させる釉薬を「辰砂」といいます。)

このように意外に歴史の古いシンナバーですが、価値をその赤い色におくか、そこから採れる水銀におくかで見方はずいぶん変わってきます。


赤い石、「辰砂」の価値

まず、「赤い石」と見た場合。
石には、砕いたり何かにこすりつけても見たとおりの色のままの「自色」の石と、砕いたりこすりつけたときの色が白くなったり色が変わってしまう「他色」の石があります。
シンナバーの場合は「自色」で、そのために赤い色の顔料として用いられていました。

日本の最古の記録に当たる「魏志倭人伝」にも、日本からの献上品の中に「丹」(辰砂の純粋な結晶)があったり、人々が朱(水銀系の赤色顔料)で体を装飾していたらしいことが記されています。
また、縄文後期には、東北や九州において古墳や遺体に朱をぬって再生を願い悪霊を封じる風習がありました。

また、日本語の「あか」は「明け」であり、太陽に由来する言葉であると言われます。(「夜明け」「あかつき」など)
一方、赤を意味するヨーロッパ語の多く (red、 rot、rougeなど)は、「血」を語源とするそうですから、東西を問わず、赤は燃えあがる火の色、命を象徴する血の色であり、そのことから歓喜や美麗、戦い、死、などのシンボルであると考えられてきたことも頷けます。

この「赤」の持つ力は、後の世にも受け継がれ、コマやヨーヨーなど、古くからの玩具に赤い色が用いられているのも、疫病を退け、子供の健康を願う意味が込められていたのだそうです。

この「赤」には、「べんがら」と呼ばれる酸化鉄も用いられていました。「朱」の場合は、水銀のもつ防腐性なども考慮して用いられていた面もあるようですが、やはり最初は、「赤」という色が持つ力が注目されていたように思います。
ところが、その「赤」の力を持つ辰砂は、やがて別の価値を持ち始めます。

辰砂を熱して得られる水銀です。


生命力の赤い石から金属加工の材料へ

水銀は恐ろしい中毒症状を引き起こす毒性がある鉱物ですが、金属加工などでは重要な役割を果たします。

水銀に金を溶かし込んだ「アマルガム」というものを他の金属に塗りつけ、さらに熱して水銀を蒸発させると、残った金はアマルガムを塗りつけた金属にしっかり食い込んで薄い皮膜を作ります。
そう……金メッキです。(※この方法を用いてならの大仏も金ぴかにされました)

このことによって
辰砂は、「あか」の力を持ったものから、金属を加工するためのひとつの「材料」へとその価値が変わっていったのです。

このことは、まだ辰砂が「赤」の力を持つものとして考えられていたころに辰砂の産地にその産出を司る「丹生都比売(にうつひめ)神」が祀られるようになったことからもわかります。
ところが時代が移り、古墳時代の終わりと共に朱を塗る風習も薄れ、今度は中国大陸から金メッキの製品とともにその技法が伝えられてくると、しだいに丹生都比売神を祀る神社の影は薄くなり、「日本書紀」や「古事記」にはほとんどとりあげられていません。

このように、以前はその神秘性によって神聖視されていたものが、人の力で制御・理解できるようになると、その「心理的な価値」は現象したり変化したりします。
たとえば、暦の発達していない世界では「日蝕」は後に神話として語り伝えられるほどの大事件ですが、暦が発達したところでは日蝕を予測することも可能になり、突然起こる衝撃的な事件ではなくなります。

ところが、興味深いことに辰砂……そこから生まれた水銀は、人の手によって制御・利用されるものでありながら、新たな神秘性を持って、さらなる価値を得ていくようになるのです。

水銀にあらたな価値を与えたもの……それは
「錬金術」と「煉丹術」です。


水銀の新たな価値

ええと、途中ですがおことわりもうしあげます。
はっきり言って「錬金術」や「煉丹術」についてしっかり正しく説明できる自信がまったくありません。
なんたって、専門家がそれ専用の本を書くときでさえ、膨大な資料と食い違う記述、曖昧な表現に非常に苦労されているのです。
なので、間違いや勘違い、強引な意見など、ツッコミどころ満載であることを承知の上で
ざっくざっくとまとめてみたいと思います。

まず、「錬金術とは何か」と辞書で引いてみますと、古代エジプトに発祥し、中世のヨーロッパ全域に広がった、普通の金属類を精錬することで、金や銀などの貴金属に変えようとした技術である……とあります。
しかし、これは錬金術のごく一面、しかも目に見える上面にしかすぎません。
現在の化学の先駆ともいえる錬金術の実験は、ただ単に「卑金属(貴金属でない金属)」から「金(貴金属)」を創りだすだけでなく、その工程において自分自身を探求し、高めていくことも含まれるからです。

錬金術とは「心を変える科学」である……とは、曖昧なようでいて、核心をついた説明かもしれません。
※「心を変える科学」については、「Alchemy 錬金術〜心を変える科学〜」C・ジルクリスト著 桃井緑美子訳 河出書房新社 を参考にしました

一方、煉丹術は、
錬金術よりもさらに魔術的な側面を持つものの、「東洋の錬金術」といえます。(別の説によれば、煉丹術はもっと広い分野を含むもので、錬金術的側面はその一部であると言います)

さて、この錬金術と煉丹術のどのあたりに辰砂(水銀)が関係してくるのかを述べるためには、錬金術、煉丹術の研究者たちが、それぞれ実験を繰り返して何を作ろうとしていたかを知っておかなくてはなりません


完全物質を求めて

錬金術っていうくらいだから、「金」を作ろうとしていたんじゃないの? ……と思われるかもしれません。
私もそう思っていたのですが、意外なことに錬金術師たちは、金そのものを作ろうとしていたのではありませんでした。

錬金術の根本目的は「哲学者の石」(別名をエリクシル)を作ることなのです。
この「哲学者の石」は金と混同されやすいのですが、金のようでいて金ではなく、普通の金属を金に変え、人には不老不死をもたらすものでした。

また、「哲学者の石」は、知識への鍵と見なされ、賢者のみが責任を持って使うことを許されたことから
「賢者の石」とも呼ばれました。
……映画にもなった大人気ファンタジーの1作目に登場したのはコレですね♪

一方、煉丹術はといいますと、こちらは「己を高める」という精神面に重きが置かれているようでもありますが、
不老不死(または不老長寿)をもたらす「丹」(金丹)を作る、というところが錬金術とそっくりです。
一説によれば、「丹」は「事物をより高次の存在へと昇華させる」という力があり、金属を金に変え、武器や防具に高い魔力を与えるそうです。
(この高い魔力を与えられた武器・防具を「宝貝(ぱおぺい)」といいます。「水滸伝」を読むと「宝貝」がいっぱい出てきます)

そしておもしろいことは、「哲学者の石」や「丹(金丹)」を求めた彼らの実験(修行?)は、彼らにとって自然界の力(錬金術世界にとっては神の業)を模倣し、人工的に行おうとしたものだった。……ということです。

錬金術を例にとれば、金などの貴金属は「完全なもの」と見なされます。
金属が地中深くで成熟すれば完全なる「金」となり、人間が完全なる知恵を獲得すれば、不老不死の完全なる者になると考えたのです。
しかし、身の回りにあるのは、金ではない金属が多く、もちろん人間も不老不死ではあり得ません。
そこで世界に充ち満ちた「不完全ではないもの」は、不純物が混ざっていたり、まだ未成熟であったりするためだととらえ、自然が長時間かけて成熟させるところを、不純物を取り除き、最良の比率で再結合させ、人工的に成熟させ、不完全なものを完全なものにすることができるのではないかと考えたというのです。

煉丹術においても、自然界で四千三百二十年の歳月をかけてできるとされていた「丹(金丹)」を人工的な方法でつくりだそうとするものであったようです。

言ってみれば、物質を完全なものにするための「自然界の力の結晶=哲学者の石、丹(金丹)」を作り出す課程で精神面や知識も高めていこうとしていたと言うことなのでしょう。

そして、「哲学者の石」や「丹(金丹)」をつくる材料として最も重要とされたものが、水銀だったのです。


水銀の不思議がもたらす力

なぜ、不完全なものを完全なものへと変える「哲学者の石」や「丹(金丹)」の材料として水銀が重要視されたのかというと、そこには水銀の持つ特性が関係しているようです。

まず、水銀はさまざまな物質と結合しやすい特性があります。
西欧神秘学の伝統では、世界は男性原理と女性原理の二つによって構成されているという考え方があります。
同じように中国でも万物は陰=女性原理と陽=男性原理によって成り立ち、どちらかが欠けたり、バランスが崩れているのはよくないとされています。

錬金術では、水銀を女性、硫黄を男性に見立てることがよくあり、さまざまな物質と結合しやすい水銀は、世界の二大構成要素を結合させることができるものと考えられたようなのです。

また、水銀は変化しやすいものです。
金属でありながら常温では液体で、たやすく気化してしまいます。
このような特性が水銀を特異な物質と認識させ、変化しやすいと言うことが原材料として選ばれる要因になったのではないでしょうか。

さらに、水銀には防腐作用があります。
ものを朽ち果てることなくとどめておく水銀は、永遠の生命、不老不死をイメージさせたのかもしれません。

水銀は天然でも存在しまずが、たいへんまれなもので、ほとんどが辰砂から作られました。

はじめはその赤い色によって、人々に「赤」の持つイメージの力を与えてきた「辰砂」が、加熱という加工を経て「水銀」というより人工的なものへと変化したにもかかわらず、鉄のような単なる材料物質と見なされるのではなく、錬金術や煉丹術……「より長く生きたい」「より高くありたい」という人間の「生命力」に通じるような考えの中で重要なものと考えられたということは、ひどく不思議なことのように思えます。

命を思わせる「赤」という色と、水銀という恐ろしい毒性を持った鉱物を含むという一面を持つシンナバーという石は、もしかしたら、「生と死」という、「命」のイメージを持つ石なのかもしれません。

……やっと、終わらせられました!「大丈夫かなー」と思いながらタイトルを付けたのですが、無事タイトルに結びつきましたでしょうか?


間違いやリンク切れ、その他情報がありましたら、
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