気になるの。 私は、昼間の時間が比較的自由になるシュフ (シェフではない) なので、よく、石のサイトをのぞきます。 たいていは「この石きれい〜!」「欲しい!」「こんな石もあるのか(今度探してみよう)」「いくら何でもこのお値段は」などと、石の画像にかじりつきなのですが、そんなこんなで石サイトを渡り歩いていると、時折ちょっとしたことに引っかかりを覚えます。 それがきっかけになって、調べ始めることになるわけです。 このたび ひっかかった石というのが、ハーキマー・ダイヤモンドです。 ご存じのように、ダイヤモンドと名前が付いていてもダイヤモンドではなく、水晶です。 アメリカ、ニューヨーク州のハーキマー鉱山でのみ産出する、柱面の短いDT(両錐)の水晶で、その輝きのすばらしさから「ダイヤモンド」の名前が冠せられたのだといいます。 この美しい水晶のどこに引っかかりを覚えたのかと言いますと……「他の水晶に比べて、かなり高温状態の環境で形成される」「高温水晶である」という説明と、「低温の熱水の中で形成された」「母岩の変成が常温に近い低い温度で行われた」(水晶の形成も低い温度?)というまったく逆の説明があることです。 ハーキマー・ダイヤモンドとは さてさて、恒例の重箱の隅つつき的話になってまいりました。 ここで話を整理するためにハーキマー・ダイヤモンドの特徴を箇条書きにまとめてみます。 ●ニューヨーク州ハーキマー鉱山で採れたもののみをハーキマー・ダイヤモンドという。 ●柱面の短いころんとしたDT(両錐)が多い。 ●原石の状態で輝きが強い。 ●黒いインクルージョンはタールである(海藻由来であるといいます)。 ●母岩のドロマイトにできた空洞の中にできる。 ●結晶のまわりをタールのようなものが包んでいることもある。 ●大きなクラスター状のものは少ない。 ●大きな結晶になると骸晶状(エレスチャル)になることが多いので、透明なものは少ない。 ……という感じでしょうか。そして付け加えるならば、ハーキマー・ダイヤモンドのでき方は ●熱水反応によって二酸化珪素(SiO2)に富むようになったドロマイトにできた空洞の中に、SiO2に富む熱水が浸みだしてきて形成された。 ●その地層は大変古いものである。 と説明されています。 そして、私の頭の中に問題として引っかかっているのは。 「ハーキマー・ダイヤモンドは高温の環境下で成長したのか、低温か」ということです。 ここで言う高温とは、摂氏870度から573度の間を指します。 ……というのも、摂氏870度から573度で結晶した水晶と573度より低い温度で結晶した水晶では、結晶の構造が違うのです。 高温で結晶した水晶は柱面が発達せず、錐面のみが上下にくっついたような形になる場合が多いので、別名ソロバン型水晶とも呼ばれます。 (ただし、その後温度が下がると結晶構造が低温で結晶した水晶と同じになってしまい、形だけ高温型水晶になります) それぞれの説の根拠は さらにまとめましょう。 ハーキマー・高温説の根拠はというと ●柱面が発達しないころんとした形であること ●透明度が高い(結晶温度が高いと透明度が高くなる) ●高温で結晶するため、タール分などが内包される という感じです。 一方ハーキマー・低温説の方は ●晶洞中に黒いピッチ状物質(タール)がついている (母岩が低温でできたことを意味する) ●高温の条件で合成した水晶には柱面ができた ●ソロバン型水晶の代表格として紹介されるダルネゴルスクのヘデンベルグ輝石入り水晶は、高温で結晶したのではなく、低い温度で結晶した という理由があげられています。 どっちももっともらしいのですが、結論を先に言ってしまうと、私は、ハーキマー・ダイヤモンドは低温で結晶したと考えています。 低温説を弁護してみる では、なぜそう考えるのか。 ハーキマー・高温説でこれは違うのではという点をあげてみます。 まず、形。 これはダルネゴルスクのソロバン型水晶の例で、高温で結晶した根拠にはなりません。 繰り返しになりますが、ダルネゴルスクのソロバン型水晶は、常温に近い低温(低温型水晶の中でも低い温度)で成長したと言われています。 また、一般的に高温型水晶の代表的な形であるとされているそろばん型水晶は上図のような感じで、まったく柱面がありません。しかし、ハーキマー・ダイヤモンドは発達していないと言うだけで柱面がちゃんとあります。 ころんとした形であるというだけで、そろばん型水晶と同じ高温型といえないのではないでしょうか。 次に透明度。 これはエレスチャルのところで述べたたように、温度ではなく、結晶の速度の問題だと思います。 ゆっくりじっくり結晶すると透明な結晶ができやすいのだそうです。 内包物については、高温だから内包されると言うよりも、結晶のまわりにくっついているほどタール分が多いところで結晶すれば、どうしたって入り込んでしまうと考えた方が自然だと思います。 さらに、高温水晶では、透明度の低いものもたくさんあります。 さらに、もう一つ注目したのが結晶そのものではなく母岩です。 ハーキマー・ダイヤモンドの母岩は「ドロマイト」です。 母岩は低温だ! ドロマイトとは何か。調べてみました。 別名を苦灰岩ともいい、サンゴなどが海底に堆積して石灰岩になった後、そのカルシウムの一部が海水中のマグネシウムと置き換わって作られたもの。 ……なのだそうです。 そう、堆積岩なのです。 上の方でハーキマー・ダイヤモンドのでき方を紹介しましたが、簡単に言えば、母岩が先にできて、あとから水晶が結晶したという順番です。その逆ではありません。 ならば、母岩が高温になったことがなければ、その中で結晶した水晶も高温状態による形成ではないということになります。 そこでおや、と思ったのがドロマイトが堆積岩であるということです。 堆積岩は、砂や珊瑚やいろいろなものが海底などに降り積もってできたものです。 そして、この堆積岩にマグマなどが入り込んで高い熱が加わったり、造山運動で高い圧力がかかると、「変成作用」を起こして変成岩になります。 そしてドロマイトについていろいろ調べても「変成岩」であるとは説明されていませんでした。 ……ということは、そこにできたハーキマー・ダイヤモンドもまた、低温で形成された……と言うことにならないでしょうか。 低温であっても、高温であっても、美しく魅力的な石であることに変わりはありませんが、まったく逆の説明が二通りあるのは、ちょっと気になります。 ※2005年10月のIMAGE2005で、ハーキマー・ダイヤモンドを販売されているW店さんに「低温か、高温か」とお聞きしてみました。 「低温です」と即答していただきました。スッキリ。 2005年9月3日、ブログ掲載 |
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