メッシーナ産 アホーアイト入り水晶

「きれい」と「美しい」の狭間





「きれいな石は好きですか?」

……と聞かれたら、どうしますか?
「はい」と即答したいところですが、私の場合、まずは、「きれいなの
好きですが……」とお茶を濁しておきましょうか。
実際、集めた石を思い浮かべてみるに、素直に「きれい」と言い難い石も、けっこう多いのです。
では、なぜ素直にきれいと言えない石を好きこのんで買うのかというと、きれい、と即答できない部分が美しいと思ったからです。

「きれい」と「美しい」の微妙な差

「きれい」と「美しい」をそれぞれ辞書で引いてみると、どちらも似通った意味なのですが、「きれい」には「清潔」とか「整っている」という意味が含まれます。
でも、私は石の整っていない部分や土っぽくて汚れて見える部分も美しいと思うのです。
茶道で使うお茶道具には、土っぽくてゆがんでいたり、中には欠けたところがあるものが「名品」とされていることがあります。
整った形にわざと手を加えてそれを乱したものや、陶器を最後に焼くときに炎の中で思わぬゆがみや山割れを生じた物の美しさを
「破調の美」(はちょうのび)と言うのだそうですが、それに近いかもしれません。
……とこんなことを言うと、なんだか高尚な趣味だと思われるかもしれませんが、そもそもは珍しくて変わった石が好きで、そういう石は往々にして「きれい」とは言いがたいものが多いというのが始まりです。
そんな石が「美しい」と言えるようになったのは、清潔で整った「きれい」とは対極にあるようなこの石の写真からでした。

ワイルド・メッシーナ!

写真にも入れてありますが、南アフリカはメッシーナ鉱山産のアホーアイト(アホーイト)入り水晶です。
写真の右端に写っている小さなポイントにほんのりアホーアイトが入っているだけなので、「アホーアイト入り水晶」と言うよりも「おまけ程度にアホーアイトが見られるメッシーナ産水晶」と言った方が正しいかもしれません。(写真よりもさらにほんのりです)
アホーアイトは、銅を含有した珪酸塩鉱物で、銅鉱床から発見されます。
日本語ではちょっとインパクトのあるその名前は、産地であるアメリカのアリゾナ州のネイティブアメリカンの部族の名前にちなんで命名されたということです。(アホー族という種族が見つからなくて困っていたら、ネイティブアメリカンの叫び声にちなむという説を見つけました)
アホーアイトはアメリカでも採掘されますが、アホーアイト入りの水晶は、世界でただ一カ所、メッシーナ鉱山でしか採掘されないそうです。
しかも、メッシーナ鉱山は1992年に閉鎖され、なかなかお目にかかることができません。
あってもお値段が……!
しかしこの石は、アホーアイトのほんのりさが幸いして、格安で入手できました。

あ、話がずれました。
メッシーナ産の水晶は、もちろん、アホーアイトの入っていないものもあります。
たいていは乳白色でやや半透明〜不透明なものが多く、緑泥石(クローライト)、赤鉄鉱(ヘマタイト)、褐鉄鉱(リモナイト)、パパゴ石(パパゴアイト)等のインクルージョンが見られます。(青緑のアホーアイトに対してパパゴアイトは青。これも大変珍しいものです)
形も変わっている物が多いようです。

……しかし、写真でもわかるように、「きれい」というよりも、なんだかいろいろなものがたくさんへばりついた「ワイルド」な水晶です。
私も最初はこれを「美しい」とは思えなくて、「高いし、せっかく買うならもうちょっときれいなのを」なんて考えていました。
写真の石も、「格安アホーアイト入り水晶」として買ってしまったのですが、写真に撮ってみて驚き!

美しい!

その土っぽさも、形のワイルドさも、土っぽい中からほんのり透ける半透明さも、まるで「廃墟」や「遺跡」や「自然の山」のような風格と美しさを備えて見えました。
少なくとも、私には美しく見えたのです。
この美しさに気づいた後、アフリカやマダガスカル産のワイルドな水晶が増えてきたことは言うまでもありません。
整った結晶は、きれいです。
しかし、写真に撮るとなると意外に「撮り方」が限定されてしまいます。
それよりも、写すたびに新たな発見のあるワイルドな水晶の「破調の美」に惹かれてしまう今日この頃です。
(2004年8月1日、ブログ掲載。追記あり)
写真および文章の無断転載・転用はご遠慮下さい。推測・個人的意見が混じっています。










【注意】

時折「アホーアイト」または「アホーアイト入り水晶」のアクセサリーや磨きものを見かけますが、アホーアイト入り水晶ではなく、クリソプレーズである場合があります。
また、白濁した石英にアホーアイトが脈状に内包されているとされるもの(ひびに青緑の鉱物が染みこんだ感じ)は、アホーアイトではなくてクリソコラだそうです。

クリソプレーズの小さなタンブル(チップ)。
アクセサリーになっているのは、これ盛りもやや色が浅く均一にアップルグリーンで半透明、丸玉や磨き、スライス、スライス状の石のワイヤラップ・ペンダントは、色むらがあったり、母岩が食い込んだように見えるものが多い。

聞いた話ですが、
アホーアイト入り水晶を加工したアクセサリーや磨きものはほぼあり得ないといってもいいそうです。

聞いた話というだけではなんですので、自分なりに検証してみました。
単に「アホーアイト(アジョイテ、アジョイト、アホー石など呼び方はいろいろ)という名前で売られている場合がありますが、先に述べたようにアホーアイト単体では、岩の表面にへばりついているか、カビのようにほわほわした小結晶の鉱物なので磨くことはできません。
(→参考サイト:アホーアイトの結晶(海外サイト)

水晶に内包されてその美しさを発揮するのですが、私の見るところ、アホーアイトは水晶のかなり表層近くにファントム状に内包されています。水晶(結晶の形を残しているもの)ではなく、石英状(ぶっかき状)のものでは、クラック(ひび)にアホーアイトがしみこんだようなものばかりです。

このことから、次のようなことが言えます。
◇アホーアイト入り水晶は、高く売れる標本なので、結晶の形が残っていれば、そのままで売られる可能性が高い。(アホーアイト入り水晶の有名なバイヤーさんは、すべて原石のまま売っているようです)
◇形に難があったとしても、歩留まりが悪い(削る割合が多い)丸玉にはしないだろう。
◇万一、丸玉にしても、ファントム状に内包されているのだから、全体が青緑(アホーアイト色)に色づくことはまずない。塊状のものを磨いたのならば、クラックにしみこんだようでなければならない。

磨きもののアホーアイトは、色合いも微妙に違います(実際のアホーアイトは青緑ですが、磨きのものは緑がつよい)。
何より
アホーアイトは水晶内に短い繊維状(細い針状)で内包されているものなので、磨いてあるのに結晶が確認できないのはおかしいのです。
参考サイト(海外:ショップサイトなので、いれかわりがあるかもしれませんが、繊維状結晶がわかる写真があります。また、広い範囲が色づいている石が少ないことがおわかりいただけるかと思います)
(→アホーアイトになっているけれど、たぶん、クリソプレーズ(海外サイト:ごめんなさい……)

その観点で見ると、私がネットショップで見たアクセサリー、磨き(スライス)、丸玉は、アホーアイトには思えませんでした。
海外サイトのものまで含めると「もしかして、これは」というものもありましたが、国内のネットショップではアホーアイトの可能性は低いようです。

実際に気づかずにクリソプレースをアホーアイトとして売ってしまい、後で回収したという事例があります。
アホーアイトのアクセサリーは、ある会社(海外)が一手に扱っており、そこはわかっていて売っているという情報もあったりします。
なにぶん、一石好きであるKUROが自分の見た範囲、聞いた範囲で申し上げているので、本物のアホーアイト入り水晶の加工品があるかもしれません。
しかし
要注意であることは確かなので、参考になりそうなサイトのリンク(海外サイト)をしつこく張らせていただきました。
疑問に思われた方は、ぜひご自分でも確認してください。

※お店にご迷惑を掛けるつもりはありませんが、実際にあったことであり、注意すべきであると思うので、ここに記させていただきます。

追記:ナミビア産でアホーアイト入りカルセドニーがあるようす。原石の標本を見る限り、全体的に青緑のアホーアイトが内包され、磨けばクリソプレースに似た感じになるように思われる。
果たして「アホーアイト」としてアクセサリー等で売られていたのは、アホーアイト単体でないのは確かだとしても、アホーアイト入り水晶ではなく、アホーアイト入りカルセドニーだったのか?
アホーアイト入りカルセドニーがどの程度産出しているか、本当にアホーアイトによる色なのか、まだ不明な点があるので判断は保留。
 
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